古着を買ってファスナーが壊れていたら返品できる?

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自分らしいワードローブを作るには最新のコレクションと古着が両方必要よ、とクロエセヴィニーがどこかのインタビューで語っていた。モードセレブにも浸透する古着は、日本においても原宿のアメカジだけの文化ではない。
古着は、前に誰かが着ていたという点で新しい服とは決定的に異なる。独特のにおいや生地の経年変化があり、それが魅力でもあり時には不安材料でもある。前に誰かが使っていた古いものなのだから、完全な保存状態というのはまずありえない。とはわかりつつも、うす暗い店内では気づかなかった汚れや破れに家に帰ってから気が付き、がっかりすることはよくある。こんなに汚れてるならやっぱりいらない、もう一つ迷ったTシャツと替えてください…と言いたくなる。
では、古着を買って家に帰って、生地の汚れや破れを発見した場合、返品は可能だろうか?

古着は新品と違って原則的に返品不可
古着の場合には、原則的には返品はできない。古着と新品の間には、

・新品の場合:「どうであれば良品なのか」がハッキリしている
・古着の場合:「どうであれば良品なのか」がハッキリしていない

という違いがある。法律的に、この「違い」が重要なのだ。
新品の場合、例えばユニクロのシャツだったら「他のにはボタンが7個ついてるのに、これは6個しかついてないから不良品だ!替えてください!」と言うことが出来る。しかし、これは「良品がどんなものか」がはっきりしているから言えること。
古着のような一点モノの場合、比較対象がないから不良品という概念がない。ボタンが取れていたり、一部分だけ色があせていたり、はたまたファスナーが動かなくても、お店側は「これはこーいう商品なんです」と言えてしまう。これが「原則」だ。……ちょっと納得できないかもしれないが、一点モノである以上、「原則」は上記通りなのだ。

古着を返品するために使える2個の「言い方」
しかし、そうは言っても、もし「ファスナーが全く動かないスカート」を買ってしまった場合、簡単に諦められるだろうか。多少生地が破れていたり、脇だけ色があせていたことに家に帰ってから気づいた場合、古着だからしょうがない…と思えるかもしれない。でも、ファスナーが全く動かなければそのスカートははくことが出来ない。もはや服ではなく、鑑賞物。よほどの洋服おたくでない限りはそれでも手元に置いておきたいとは思わないだろう。
法律的には、この場合に使える「言い方」が2個ある。

・「ファスナーは動くと勘違いしてたんですけど、動かないならいらないです…」
・「ファスナーが動かないなんて欠陥品だから、いらないです」

……「どちらもほぼ同じでは?」と思うかもしれないが、法律的には、上記2個の「言い方」は区別されているのだ。

「ファスナーは動くと勘違いしてたんですけど、動かないならいらないです…」
ではまず、「ファスナーは動くと勘違いしてたんですけど、動かないならいらないです…」というのは通らないのだろうか。
あたりまえのような主張だけれど、この主張が通るには法律的に条件が3つある。
まず、この服は着るために買うのだということを、お店の人に(黙示であれ)伝えていたこと。……とはいえ、服は普通着るためのものだから、「このスカート、かわいすぎてもったいないからはかずに部屋に飾ります!」とか言いながら買った場合でもない限り、これはまず大丈夫。
次に、その服の欠陥が重大であること。色あせとかほつれではダメだけれど、ファスナーが動かず着られないというのは服として致命的だから当然クリア。
そして最後に、買い手に「その勘違いはどう考えても自分が悪い…」というミスがないこと。これ、ファスナーの場合は難しい。試着をすれば簡単に気づけるし、古着のファスナーの動きが悪いのはよくあること。試着もせず、ファスナーを動かしてもみなかった、というのは買主も悪いよね……と言われる可能性は大いにある。ただ、メンテナンスの良さを売りにする値段設定が高めのお店であったり、「ファスナーで脱ぎ着しやすいですよね」などという店員さんの発言があった場合などは、お店を信頼したのもしょうがないと言えそう。買ったときの店員さんとのやりとりや状況次第…というところだ。

「ファスナーが動かないなんて欠陥品だから、いらないです」
次に、「ファスナーが動かないなんて欠陥品だから、いらないです」とは言えないのか。
前述の通り、古着のような一点モノの場合、不良品という概念はない。そうは言っても、欠陥品は欠陥品だ。
この主張は法律的な条件を二つクリアすれば認められる。
まず、普通の洋服が備えている機能に欠陥があること。洋服の場合、電化製品などと違って普通備えている機能というものがほぼない。しかし、ファスナーが動かず着られない、という致命的な欠陥は当然これに当たる。他には股のあたりが破れている女性用ジーンズ、なんかももこれにあたるかもしれない。
そして、その欠陥が、普通に気を付けていてもわからないことも必要。ファスナーについては、試着可能であったり、買い手が自由に服を手に取って見られるような通常のお店の状況であれば、普通わかったよね…と言われてしまう。ものすごく暗い店内で、試着したけどこんなところ破れてるなんで気づけなかった!ということはあるかもしれない。
したがって、ファスナーに関してこちらの主張はまず認められない。

古着の場合は買ってしまったら返品は難しい
意外かもしれないが、ファスナーの動かないスカートすら、古着の場合は一度買ってしまったら返品出来ない可能性が大きい。新品の量産品と全く対応が異なるのは、一点モノという商品の特性による。一番の魅力が、一番の仇となっている…?
古着の山の中からひとめぼれの一着を見つけても、自分の目でしっかりと確認することは忘れないで。

(執筆:ニシムラミカ / 監修:河瀬季)

ニシムラミカ

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知的財産分野に明るくなりたい、弁護士のたまご。 大学時代は服飾サークルに所属、エスモードジャパンで服づくりの基礎を勉強。趣味は自分の服を作ること。夢は靴下デザイナー。 主に法的視点から見たファッションゴシップを発信します。