Appleに無断で「iPhoneユーザー用ジーンズ」を販売してもいい?

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「WTFJeans」というブランドが発売している「WTFJeans3」は、iPhoneユーザー用ジーンズ。どういうことかというと、iPhoneを入れるのにピッタリなポケットがあって、ポケットの裏地はマイクロファイバーだから出し入れの度に画面をキレイにしてくれて、さらに防水だから雨で多少濡れてもiPhoneが壊れない(参考:iPhoneユーザー専用デニムブランドから新モデル登場 | Fashionsnap.com)。
「iPhoneユーザー用」ということで、「WTFJeans」ブランドを知らなかった人にも「お」と思って貰える、なかなか「上手い」商品だと言えるだろう。
(画像は「WTFJeans: Hi Tech Smartphone Jeans」のスクリーンショット)

「iPhoneユーザー向けアパレル」で一発当てるチャンス?

しかし、「まだあまり有名でないブランドでも、『iPhoneユーザー向け』を謳えば、iPhoneユーザーに対して商品を訴求することができる」と考えると、「立ち上げ間もないブランドでも一発当てるチャンスがある!」という気がする一方、何か「問題」があるような気もしてくる。
こうした商品開発や宣伝方法は、果たして法律的に問題ないのだろうか?

「iPhone対応」なファッションアイテムを作ること

まず、こうした製品を作ること自体は、合法だ。……今回の「iPhoneユーザー用ジーンズ」も、商品自体を冷静に見れば、単に「iPhoneと同じサイズのものを入れるためのポケットがあるジーンズ」「裏地がマイクロファイバーなポケットがあるジーンズ」という物に過ぎない。

その商品を「iPhone対応」と宣伝すること

Appleは、「iPhone」という言葉について商標権を持っている。
ただ、ちょっと分かりにくいが、「商標権」とは「『iPhone』と言うな権」ではない。「Appleが『iPhone』商標を持っているから、他のアパレル企業などは『iPhone』という言葉を一切使ってはいけない」……というわけではないのだ。
商標権は、それっぽい言い方をすると、「『出所識別機能』などを守る権利」だ。どういうことかというと、例えば「iPhone Jeans」という商品名でジーンズを発売すると、それを見た人は「Apple公式/公認のジーンズかな」と思ってしまう。商品の「出所」を正しく「識別」することができなくなってしまう。「このような使われ方をさせない権利」が、「商標権」だ。
つまり逆に言うと、「Apple公式/公認のジーンズかな」と思わせない使い方ならOK。商品説明として「iPhoneユーザー用ジーンズ」と記載することは、商標権の侵害にはならない。

商品説明写真にiPhoneを写すこと

「WTFJeans3」の商品紹介ページには、iPhoneが写った写真も掲載されている。

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「これはダメだろ!」……と思うかもしれないが、実は、これも合法だ。
例えば、ドラえもんのぬいぐるみの写真を勝手に掲載すると、「著作権」の侵害になる。しかし、「iPhoneの写真を勝手に掲載すること」は、これとは異なる。
この話は、実は法律学的に少し難しい問題なのだが、

・漫画など広い意味での「美術」に属するもの → 著作権法の保護対象
・工業製品などの大量生産品 → 著作権法の保護対象ではない

と考えられているのだ。だから、iPhoneは著作権法の保護対象ではなく、「iPhoneの写真を掲載すること」は著作権侵害にはならない。

粗悪品が登場する可能性と「Apple公認」

このように、「iPhone用」の製品を開発して販売することは、基本的に自由だ。これはアパレルに限らず、「iPhone用ケース」「iPhone用ケーブル」などの場合も同じ。
そうなってくると、どうしても価格競争が起こり、中には粗悪品も出てきてしまう。Appleとしては、粗悪品が出回ってiPhoneのイメージが下がるのは避けたいところだろう。
……ということで出てくるのが、「Appleが公認した製品だけが、付けることを許されるマーク」というものだ。iPhone用ケーブルなどに付けられている「Made for iPhone」はこれ。

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iPhone用アパレルも、いずれ大人気になって、様々な国の様々なブランドから発売されまくるようになると、「Made for iPhone」を取得できるアパレルブランドと、取得できないアパレルブランド、なんて区別が出てくる。……かもしれない。

(執筆:河瀬季 / 監修:ニシムラミカ)

法務博士 河瀬季

法務博士 河瀬季

著作権法、商標法などの知的財産法分野や企業法務を得意とする、元IT関連フリーランスの法務博士。「ビジネス+IT」での連載「法律が分かる起業物語」など各種企業運営サイトへの寄稿や、新興企業への法務アドバイスなどを行っている。