法改正でホットな「ファッションxクラウドファンディング」とは?

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「ファッションxクラウドファンディング」として、現時点では、一番有名なのは伊勢丹と装苑が始めた「TOKYO DESIGN COMMIT」だろう。2014年5月23日に通称「改正金融商品取引法」が成立し、アパレルの新進ブランドやショップにとっても今後さらにアツくなっていくことが予想される「ファッションxクラウドファンディング」について、概要を解説しよう。
(画像は「伊勢丹×装苑のクラウドファンディング TOKYO DESIGN COMMIT | ISETAN PARK net」のスクリーンショット)

アイドルを育てる感じでブランドを育てて貰える!?

5月23日、通称「改正金融商品取引法」が成立した(参考:ネットで資金調達制度の法律成立 NHKニュース)。ファッションブランドやショップなど、アパレル関連の起業にとっても、なかなか重要度が高い法律改正だ。
一言で言えば、「こんなブランド/ショップを立ち上げたい、だから自分に投資して!」と、ネットを使って広く募集することが簡単になるのだ。
例えば、装苑賞やYKKファスニングアワード、各服飾学校などと連動し、「このデザイナー良い!絶対このブランドは成功するはず!」と思った人が、受賞者に対して投資を行うことができる……なんてシステムが実現したら、なかなかアツいだろう。1000円や1万円など、小口でも投資を行えるから、アイドルを育てるような感じでブランドを育てて貰える……というわけだ。

そもそも「クラウドファンディング」とは何なのか

「クラウドファンディング」とは、不特定多数の人がネット経由でアパレル等の企業に資金提供を行うこと。……なのだが、一言で「クラウドファンディング」と言っても、「TOKYO DESIGN COMMIT」など、現時点でポピュラーなクラウドファンディングと、今回の法改正でホットになることが予想されるクラウドファンディングは、タイプが違う。今回の法改正について理解するには、前提として、これらの区別が必要だ。

・「TOKYO DESIGN COMMIT」など → 購入型(不特定多数の人がアパレル企業等に資金を提供し、代わりに商品等を受け取るタイプ)
・今回の法改正が関係するもの → 投資型(不特定多数の人がアパレル企業等に資金を提供し、代わりに収益の分配を受けるタイプ)

例えば「TOKYO DESIGN COMMIT」は、お金を払う「支援」を行うと、コレクションの招待状やオリジナルポーチなどの商品を受け取ることができる。

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こうした「購入型」のクラウドファンディングは、「一定の購入者(目標金額)が集まらなかった場合には誰も商品を買えなくなる」という点に特殊性があるものの、法律的に言えば、普通のネット通販と同じだ。だから、普通のネット通販業者と同じような法規制を受けることにはなるが、今回の法改正は関係がない。

今回の法改正が変えるのは「投資型」

今回の法改正によって変わるのは、「投資型」のクラウドファンディングだ。
「投資型」のクラウドファンディングは、「購入型」と異なり、資金提供者から見ると「リスク」がある。アパレル企業等が成功すれば大きなリターンを得られるが、失敗したら資金を失う可能性がある、というリスクだ。
そこで資金提供者保護のため、「金融商品取引法」という法律が、こうした投資(法律的には「集団投資スキーム持分」というが、本記事では全て「投資」と呼ぶ)に対して規制を行っている。「投資型のクラウドファンディング」も、「投資」の一種として、この法規制を受けている。

下二つが「投資」
右二つが「クラウドファンディング」 購入型のクラウドファンディング 投資型のクラウドファンディング=ネット上で行われる投資
ネット以外で行われる投資

ファッションでも「投資型」がホットになる?

今回の法改正は、「投資」の中で「投資型のクラウドファンディング」の場合(ネット上で投資仲介を行う場合)のみ、上の規律を緩めてカジュアルにする、というもの。参入の条件を緩め、その代わり、

・1人の資金提供者が1企業に投資できる金額は50万円以下
・企業側が1年間に募集できる資金額は1億円未満

という制限を加える。資金提供者に大きなリスクを負わせないよう、投資金額や募集金額に制限を加えるが、その代わりに参入を容易にする、という法改正だ。

アパレルは「投資型」をどう活用できるか

「投資型」のクラウドファンディングを「購入型」と比べた場合、アパレル企業等にとっての最大のポイントは、「具体的な商品を即座に渡す必要がない」ということだろう。
「購入型」では、例えば5000円の支援を受けるためには、5000円の価値がある(と資金提供者に思って貰える)ポーチを作って渡す必要がある。「投資型」であれば、「こんなブランド/ショップを作りたいから支援して欲しい」といった呼びかけが可能になる。ポーチを作って渡す必要はなく、ただしその代わり、そのブランド/ショップが成功したら、支援してくれた人に収益分配を行う、という形だ。
今回の法改正をきっかけに、「投資型」のクラウドファンディングが一般的になっていけば、ブランド/ショップ立ち上げにおける資金調達の選択肢が増える、と言えそうだ。

(執筆:河瀬季 / 監修:ニシムラミカ)

法務博士 河瀬季

法務博士 河瀬季

著作権法、商標法などの知的財産法分野や企業法務を得意とする、元IT関連フリーランスの法務博士。「ビジネス+IT」での連載「法律が分かる起業物語」など各種企業運営サイトへの寄稿や、新興企業への法務アドバイスなどを行っている。