あのヒールの横顔はマノロブラニク…!とわかる人は少ないが、クリスチャンルブタンの靴を履いているのは一目でわかる。後ろ姿に鮮烈なレッドソールが目に入るからだ。新宿伊勢丹靴売り場の位置や面積を見れば、ルブタンの圧倒的人気は明らかだ。そのルブタン人気に「一目でそれとわかるレッドソール効果」が貢献していることは間違いない。
「一目でわかるトレードマーク」とブランド戦略
ブランド戦略にあたって、「一目でそれとわかる」ことは重要だ。ハイブランドや流行のブランドにおいては、「一目でわかること」自体が価値になりうるし、そうでないブランドにおいても、「類似品との区別」という重要な意味を持つ。そして、その「一目でわかるトレードマーク」を法律的に保護して貰うには、商標として登録する必要がある。
最近、日本も諸外国に倣い、音、ホログラム、動き、輪郭のない色彩、位置が新たに商標の保護対象となった。2014年4月25日に成立した改正商標法だ。ブランドロゴや商品名だけでなく、ブランドカラーやデザインも厚く保護できるようになったのだ。
モノグラムもエピラインも、見ればLV商品だと分かる
商標を登録して貰うにはいくつか条件があるが、もっとも重要なポイントが「識別力」。自分の商品を他人の商品と区別させる力が、そのトレードマークにあるか、ということだ。
例えば、「LVのモノグラムを見ればルイヴィトンのバッグだと分かる」ということは、「LVモノグラムには、ルイヴィトンのバッグと他のバッグを区別させる力がある」ということ。「レッドソールを見ればルブタンの靴だと分かる」ということは「レッドソールというトレードマークには、ルブタンの靴と他の靴を区別させる力がある」ということだ。
逆に、あまりにありふれたものや慣用される表現、単純なものは識別力がないとされる。例えば、ワンピースに「白ワンピ」という商品名をつけることであったり、ブランドの紙袋を黒にすることであったり、そんな巷に溢れかえった表現では「識別力がある」とは認めてもらえない。
しかし、ありふれた表現であっても、永年にわたり使用した結果、「これはあのブランドだよね」と広く知られるようになった場合には、例外的に登録を認められる。ルイヴィトンのエピラインは、ありふれた型押し模様とも言えるものの、世界中での売り上げと大々的な広告、そして女性の70パーセントもがエピラインの模様を見てルイヴィトンの商品であると認識したという事実等から、識別力(使用による顕著性)が認められた例である。
色がブランドの「トレードマーク」となるには?
新しく商標登録が認められた中で、もっともファッションに影響があるのは色だろう。
既に欧米で登録されている色の商標として有名なものに、ルブタンのレッドソールに加えてティファニーブルーがある。自分のブランドでしか使えない色を持つなんて、これ以上ない贅沢なブランド戦略に思える。しかし、この「色の商標」は、実際に識別力を認めてもらうのが難しい。ファッション業界において、この色はこのブランドのもの、あの色はあのブランドのもの…なんて事態は通常ありえない。色はそもそもありふれたものであり、識別力を持たないからだ。したがって、商標として認められるためには、永年の使用によって「この色と言えばあのブランドだよね!」と広く知られる必要があるのだ。
おそらく、エルメスがあのオレンジ色を、紙袋や箱を対象に商標を認められるのは比較的容易と考えられる。しかし、今日立ち上げたブランドが色の商標を認めてもらうには、かなりの時間を要するだろう。つまり、色の商標はすでに人気があるブランドの戦略において有用なのだ。
いつか「におい」も商標登録できるようになる?
また、結果として今回は見送られたものの、商標権の保護対象としてその他に「におい、味覚、触覚、店舗外観」等も検討されていた。
先日、アップルの店舗デザインがEUで商標登録されたニュースが話題に上ったが、いずれもこれらは諸外国では既に保護の対象となっており、将来的に日本においても保護の対象とされる可能性はある。
その中で気になるのが、「においの商標」。
例えば、アメリカでサロンパスは湿布薬に対するミントのにおいの商標を持っている。
洋服でも、セレクトショップなどで見かけるKristenseN DU NORD(クリステンセンドゥノルド)という、店頭に並んでいるととてもよい香りがするデンマークのブランドがある。何度も洗ううちに消えてしまうが、タグを見なくてもそれとわかる、素敵なトレードマークだ。
いつの日か、日本でにおいが保護対象になった時に、「この香りはあのブランドの服だよね!」というブランドがあったらいいな…なんて思ったりする。
(執筆:ニシムラミカ / 監修:河瀬季)