私たちがエステサロンに預ける個人情報の価値


楽して痩せたりきれいになれる方法はない、と言うけれど、エステだけは別。痛みを伴うこともあるけれど、エステサロンに行って横たわれば2時間後には太ももがすっきりしていたり、肌がぴかぴかになっていたりする。費用がかかるから日常的に通うことはなかなか難しいけれど、だからこそ行く時はわくわくだ。通常、エステサロンを選ぶとき、最も気にするのは効果だと思う。次に重要なのが費用。あとは、立地や営業時間で通えるかどうか、エステティシャンが優しいかも口コミで調べよう……でも、ほんとにそれだけでいいのだろうか。
私たちは、とても「センシティブ」なプライバシー情報をエステサロンに預けることになる。氏名や住所、スリーサイズや体の悩みなどなど。そしてさらに、もう一つ、「センシティブ」な情報がある。「自分がエステに行った」という情報である。
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エステでもクリーニング屋でも預ける「個人識別情報」

もしあなたが、夏休みの友人とのハワイ旅行までに痩せようと思い立ち、エステサロンに行くことを決心したとする。ネットで評判のいいサロンを調べ、予約して足を運ぶ。すると、まず大体のサロンでは最初にカルテを記入することになる。氏名・住所・生年月日・電話番号・メールアドレス……。ここまでは、エステサロンに限らず、例えばクリーニング屋でポイントカードを作る場合にも書く情報だ。他のお客さんとあなたを「識別」するための情報。それっぽい言い方をすると「個人識別情報」である。

エステにはスリーサイズなど「センシティブ」な情報も預ける

しかしエステサロンでは、「個人識別情報」以外にも、様々な情報を書くことになる。スリーサイズ・身長体重・自分の体の気になるところ……。これらは、エステサロンに特有の、「センシティブ」な情報だ。体重なんて人に言いたくないけれど、これから脂肪を絞り出してくれるエステティシャンにそんな見栄を張っている場合ではない。若干の抵抗を覚えながらも記入して提出すると思う。
では、もしあなたがこれらの情報を記入したカルテがネット上に流出してしまったらどうだろうか。氏名・住所などの個人情報の流出だってもちろん困るけれど、それだけでなく、体重まで一緒に2ちゃんねるに書き込まれてしまったら……。

「エステの痩身コースに行った」ということ自体も重要なプライバシー

さらに、この場合に流出する重要な情報は、もう一つある。「あなたがエステの●●コース(例えば痩身コース)に行った」という情報である。仲良し女子会の話題にはなっても、世間話でエステに行ったとか痩身コースに行ったなんて普通は言いたくない。「エステの痩身コースに行ったということ」だって、隠しておきたいプライバシーのはずだ。
ここが、大事なポイント。学校の名簿やクリーニング屋の名簿が出回るのもイヤだけど、「エステの名簿」が流出することには、それ以上の問題がある。そこに名前が載っているのは、例えば「エステの痩身コースに行った人」だ。「自分がエステの痩身コースに行った」ということが、バレてしまうのである。

エステの個人情報が実際に流出してしまった事件

これらの情報が実際に流出してしまった事件は、実際にある。被害女性たちが、プライバシー権の侵害を理由に慰謝料を請求したのに対し、
裁判所は、

  1. エステサロン特有の、体重、スリーサイズといった身体情報は、まさに誰にも知られたくない個人情報なので、プライバシーにあたる
  2. 「痩身コースを選んだ」という情報も、まさに誰にも知られたくない個人情報なので、プライバシーにあたる
  3. 痩せてきれいになりたい!と悩む気持ちはセンシティブな情報である点で、通常より高い保護を与えられてしかるべき

との理由で、一人につき30,000円の慰謝料の支払いを認めた。

エステの場合は普通よりも慰謝料が高い

この30,000円という金額は、情報流出に対する慰謝料額としては高い。例えば、氏名住所などの個人識別情報(+その大学に通っているという情報)が流出した事件での慰謝料は、わずか5,000円だった。
つまり、裁判所は私たちがエステサロンに預ける情報を他の情報に比べてかなりセンシティブと認定し、その流出につき30,000円分の動揺を認めた、ということ。

情報管理が信頼できるかどうかは大事なポイント

言い方を変えれば、私たちは30,000円分もの個人情報をエステサロンに預けるのだ。
センシティブな情報だけに、預かる方も一層気をつけて管理すべきだって裁判所も言っているし、もちろんエステティシャンの人たちはそんな顧客の気持ちをわかってくれているはずだ。でも、まんがいち、ということだってある。
情報管理が信頼できるサロン、ということも、エステサロンを選ぶ場合の検討事項に追加したほうが良さそうだ。

ニシムラミカ

ニシムラミカ

知的財産分野に明るくなりたい、弁護士のたまご。 大学時代は服飾サークルに所属、エスモードジャパンで服づくりの基礎を勉強。趣味は自分の服を作ること。夢は靴下デザイナー。 主に法的視点から見たファッションゴシップを発信します。